2014/05/07




どんな表現においてもにおいを物理的に作り上げることはできないから、私も、きっとあなたも、作品のうちやそとにあるにおいを人知れずかぐことでふと思い出したり懐かしく思ったりしていて、出掛けて、本を読んで、映画を観て、芝居を観て、今の自分を慰めているのかなあと思うことがあります。否定的にも肯定的にも、そういうことなのかなあと少し思ったりします。

毎日祖母と祖父と暮らしていると、今までしなかった顔をするようになったり、居眠りが増えたりします。その時々の瞬間のにおいは無意識にどこかに貯蔵されて、例えばこれまで撮った写真の中の祖母の笑った顔をみたときに、今日のやせた横顔を思い返すとどうにも切なくなって、愛おしくて、もう一歩も家から出るまいと思ったりします。
それでも一時間後には笑顔で外出しているから、怖いよね。

結局忘れっぽい私が思い出すために、思い出すにはどうすればいいか自分が一番よく分かっているから、つまらない写真を撮るし、つまらない本を書いたりするのかもしれないね。いつだって私の目は未来にある過去を追っていて大変後ろ向きだと思う。